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これが「遊ぶ」という言葉のもとになっております。
つまり、どこかに根拠を置きながら漂うような状態を遊ぶというのです。外国に勉強に行くのを「遊学」といいますが、これもその意味で遊びと勉強をしに行くわけではありません。いわゆる遊廓というところがありますが、これも外国の人には非常に誤解を受けるのであります。単なる売春窟というのにはちょっと縁遠いような、非常に文化の程度の高い、いろいろな遊芸を心得た女性たちと一緒に現在のいろいろな世の中の拘束性を解き放たれて自由になるという感覚が当時の人たちの遊びであったのです。
これは明治になってから大変な誤解を起こします。例えば、横浜の居留地、外国人が住む場所ができたのでありますが、これは主としてアメリカからの要求であったのでありますが、ここで明治政府に対してレクリエーション施設を整備してくれという要求が出てまいります。日本政府のお役人は「遊ぶところでござるか、心得た、わかった」という事でつくったのが遊女屋であったという有名な話がございます。つまり日本人にとって「遊ぶ」ということは「女と遊ぶ」ということであったわけです。これは現在でも大変誤解の連続になっているのです。
それで、アメリカ人たちは非常に怒りまして、日本人は全般的に言うと非常に礼儀正しいし、文化程度も高いと思ったけれども、このことに関しては非常に遅れていると思ったのです。そして、彼らが自分たちで整備をしたのが何であったかというと、4つあります。
まず乗馬道。馬に乗って行く道です。これを見て日本のお役人は驚いたわけです。馬に乗るというのは鍛練であって遊びではないと、こう言ったのです。
次は散歩道。この散歩という言葉は明治になってからできたのでありまして、目的なしにぶらぶら歩く奴は日本では泥捧だと言われた。だから今日、テレビの時代劇などで「ご主人は在宅であるか」「ちょっとそこまで散歩に」などという場面が出てくることがありますが、こんなことは絶対に言わないのです。これは「所用があって他出しております、よそに行っております」と、こういう言い方しかしなかったのであります。
3つ目は、ボールルーム、いわゆる踊りを踊る場所です。ダンスルームといいましょうか、これは日本人にとりましては驚くべきことであります。男と女が抱き合って踊るのは甚だいかがわしいという事なんです。
4つ目はカードルームであります。これは身分卑しき者が博打をやるときに使う「花札」だと理解したのです。こういうものをするのは、外国人とは見下げた連中だと思った。これが文化摩擦第1号なんです。
この事からおわかりのように、実は自分たちが持っておりますライフスタイル、価値観というものが世界の中で交流をする中で、相対的に見ることが可能になるのでありますが、当時はそれが出来なかった。また、欧米の人たちも自分たちのキリスト教的な価値観というもので日本人を見て、大変驚くのであります。この当時は、日本人は非常に高温多湿なところに住んでおりますので、風呂に入るのが大変好きであります。もっとも日本では湯屋と風呂屋は違っていたのです。つまり、蒸し風呂が風呂屋でありまして、湯屋というのが今日の風呂屋に近いのです。いずれにいたしましても、割に裸に対して開けっ広げでありましたから、娘さんでも平気で裸に近い格好で、要するにストリーキングをするのです。
町の中をパッーと裸のままで走って風呂屋に行くというような事が平気であった。外国人はこれが珍しいものですから風呂屋にのぞきに行くのです。明治政府は、これは困ったという事で、風呂屋に外国人に対して目隠しをせよという事で、大変高いところまで目隠しをしたという記録が残っております。
事々左様に、お互いの生活の感覚あるいは価値観というものが随分違っていたのであります。今日でも日本人の観光といいますのは、いろいろな有名なところを駆け足で回るという巡回型の形を取る。そして、みやげものをやたらに買いたがる。最近やっと税金が変わりましたので、日本人で酒とたばこを買う数が少なくなったのですが、以前はアジア人で日本人と非日本人を見分けるのは、たばこと酒を持っていて眼鏡をかけた人が、日本人というぐらいにこの行動には1つの癖があったのです。
これは日本人の旅行者を少し馬鹿にしたお話をしている様にお聞きかもしれませんが、むしろ日本の伝統的な旅行という形態でございます。しかし、これがようやく最近になって変わろうとしている。これは外国の場合でもそうでありまして、実はツーリズムという言葉であらわされておりますが、これはもともとはお金持ちの貴族が独占をしていた楽しみであったのでありまして、それが今庶民の手におりてきた時に、実は中身が少しずつ変わってきているのです。わざわざ日本まで来てジョギングする人あるいはテニスをする人がい

 

 

 

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